企業の「らしさ」を言語化する技術:「アイデンティティの構築方法」

クリエイティブプロデュースや戦略デザインを専門として活動している、ヨコタナオヤと申します。

「コンセプト × 戦略 × デザイン」の視点から、スタートアップや成長企業の皆様の「新規事業開発」「ブランディング」「戦略設計」などをお手伝いする中で、お客様からいただく質問や気づいたことをまとめて、新規事業開発担当の方や経営者の皆様に役立ちそうな情報としてお届けしています。

※本記事 【企業の「らしさ」を言語化する技術:「アイデンティティの構築方法」】は「B2Bマーケティング, B2Cブランディング, インナーブランディング, コーポレートアイデンティティ, ブランドアイデンティティ, ブランドストーリー, ブランド戦略, ミッション・ビジョン, 企業ブランディング, 企業理念, 採用ブランディング, 組織文化」に関する記事となっております。(記事カテゴリ: コンセプト・アイデンティティ設計

はじめに

企業にはそれぞれ独自の文化や価値観、いわゆるその会社らしさがあります。それを明確な言葉で表現し、内外に伝えることは、ブランド力の強化だけでなく組織の結束にもつながります。特に製造業や金融業といったコンサバティブな業界の企業でも、自社のアイデンティティ(存在意義や独自性)を言語化し戦略的に活用する動きが進んでいます。

本記事では、企業の「らしさ」を言語化する意義と具体的なプロセス、そして日本国内企業の成功事例を紹介します。最後に、そのアイデンティティを社内外へ浸透させる方法と得られるメリットについてまとめます。

目次

1. 企業のアイデンティティとは何か?

企業のアイデンティティとは、簡単に言えば「自社は何者で、何を大切にしているか」という企業の本質を示すものです​。これは単なるロゴやデザインだけではなく、企業理念・価値観・日々の行動指針に至るまで一貫したメッセージとして表現されます。​

例えば企業が掲げるミッション(使命)や創業から培ってきた精神、独自の社風などが企業アイデンティティの核となります。

ブランドコンセプトとの違い

混同しやすい概念に「ブランドコンセプト」があります。ブランドコンセプトは主に顧客に提供したい価値や社会における役割を明確に言葉で表現したものです​。要するに「私たちの製品・サービスを通じて何を実現したいか」を示す対外的なメッセージです。

一方で企業アイデンティティは、そうしたブランドコンセプトも含めて企業内部の文化や理念と結びついた包括的な戦略と言えます。ブランドコンセプトが企業のビジョンと一致して策定されれば、社員や顧客の共感を得やすくなり、社内外で一貫したメッセージの共有が可能になります​。

つまり企業アイデンティティはブランドコンセプトの土台にある企業「らしさ」そのものであり、企業文化としてのアイデンティティと対外的なブランド表現をつなぐ役割を果たします。

2. なぜ「らしさ」を言語化する必要があるのか?

組織文化の形成

企業の「らしさ」を言語化することは、社内の組織文化を形成・強化する上で重要です。明文化されたミッション・ビジョン・バリューが存在し、それが社員に深く共感されていれば、社員全員が共通の意識をもって働くことができます​。たとえ組織規模が拡大しても軸がブレない意思決定が可能になり、新しい事業や施策に対する社員の理解もスムーズになります​。このように、言語化された企業アイデンティティは社内のベクトルを揃え、一体感やモチベーション向上につながります。

ステークホルダーとの関係構築

また企業アイデンティティの言語化は、顧客・取引先・投資家といった社外ステークホルダーとの信頼関係構築にも寄与します。自社の理念や価値観が明確に打ち出され根付くことで、企業に対するポジティブなイメージが定着します​。消費者や取引先から高く評価されれば良好な関係を築きやすくなり、継続的な取引や受注にもつながります​。

同様に、明確なアイデンティティが社内で共有され高く評価されることで、働く意欲が向上し優秀な人材の獲得にもつながります​。さらに投資家や金融機関から見ても、企業の軸が明確な会社は信頼を得やすく、資金調達面でも有利になるという指摘もあります。​

このように「らしさ」の言語化は、内に向けては社員の結束と企業文化醸成を促し、外に向けてはブランドイメージ向上と利害関係者からの支持獲得につながるのです。

3. アイデンティティの言語化プロセス

企業のアイデンティティを言語化するには、体系的なプロセスに沿って進めることが効果的です。ここでは一般的なステップを紹介します。

(1) 企業の歴史・価値観・ビジョンの整理

まずは自社の現在の企業理念やビジョン、創業時からの歴史を改めて洗い出します。創業者が大切にした精神や社是など、時代が変わっても不変な部分と、環境変化に応じて見直すべき可変な部分を区別して整理します​。また、自分たちが目指している方向性と、外部から見た自社のイメージにギャップがないかを確認することも重要です​。この作業は経営層だけでなく、人事や広報など様々な部門のメンバーを交えて行い、社内の多様な視点から意見を集約すると良いと考えられます。

(2) ステークホルダーインタビュー

次に、社内外のステークホルダーへのインタビュー調査を実施します。経営者や社員はもちろん、必要に応じて長年の顧客や取引先にもヒアリングを行い、自社の強みや大切にしている価値観についての認識を集めます。例えば新サービス立ち上げ時に経営トップを含めたヒアリングを実施し、事業に懸ける想いや大切にしたいことを洗い出したケースもあります​。

こうした定性的な情報収集により、企業のDNAとも言えるキーワードが浮かび上がってきます。「情熱」「挑戦」「誠実さ」など、社内で繰り返し語られる言葉の中にその企業らしさが宿っていることが多いのです。

(3) 企業DNAを表現するキーワードの抽出

インタビューや資料整理で得られた情報から、自社を象徴するキーワードやフレーズを抽出します。ここでは企業の理念や強みを端的に表す言葉を見つける作業です。例えば創業当初から受け継がれているモットーや、社員が口々に語る社風を象徴する言葉がないか探ります。それらのキーワードを軸に据え、「当社らしさ」を一文で表現するタグラインやスローガン案をいくつか考えてみます。この段階では社内でブレインストーミングを行い、多様な案を出すことが有効です。

(4) ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の策定

企業アイデンティティの核となるのが、ミッション(企業の使命)、ビジョン(目指す将来像)、バリュー(行動指針や価値観)です。上記で抽出した企業DNAのキーワードを踏まえ、これらMVVを言語化していきます。策定にあたっては社員複数名によるセッション形式で議論する方法がおすすめです​。

企業理念(マインドアイデンティティ)は社員みんなのものなので、議論を通じて共同で作成することで所有感が生まれます​。トップダウンで一方的に決めるのではなく、様々な階層の社員の意見を取り入れることで現場感覚と乖離しない実効性のある内容となり、策定後の社内浸透もスムーズになるはずです。

以上のプロセスを経て策定された企業アイデンティティは、言葉としての整合性が取れているだけでなく、その背後に社員の共感や想いが込められたものになります。この土台がしっかりできれば、次に紹介するような具体的なデザインやコミュニケーション施策へと展開しやすくなります。

4. 成功事例:日本国内の企業から学ぶ

言語化された企業アイデンティティを軸にブランディングを成功させた国内企業の事例を、業界別に紹介します。

① 伝統的な製造業のアイデンティティ構築 – ヤンマー

創業100年以上の歴史を持つヤンマーは、農業機械やエンジン製造で知られる老舗メーカーです​。同社は創業当初からテレビCMのキャラクター「ヤン坊マー坊」や天気予報への提供を通じて、社名と企業イメージを広く浸透させてきました​。近年ではグローバル展開を見据え、自社を高級感あるブランドとして印象付けるためのアイデンティティ構築に取り組んでいます​

。具体的には企業アイデンティティを反映したスローガンやロゴを刷新し、テレビCM・新聞・SNSなど多面的に発信することで新たな層からも注目を集めています​。伝統的な製造業であっても時代に合わせたアイデンティティの再定義により、ブランド価値の向上と国内外での競争優位性確立に成功した好例と言えるでしょう。

② 金融業界におけるブランドアイデンティティの確立 – アイフル

保守的な印象の強い金融業界ですが、大手消費者金融のアイフルは近年ブランドアイデンティティの刷新に踏み切りました。アイフルグループは創業55周年のタイミングで、長年親しまれてきたハートのシンボルマークと社名ロゴを初めて本格的にリニューアルしました​。かつて宝塚出身の女優を起用した「女将シリーズ」のCMやマスコット犬のチワワで知られた同社が、なぜこの時期にビジュアル・アイデンティティ(VI)の刷新を行ったのか注目されました​。

その背景には、従来のイメージにとどまらず新たな情緒的価値を取り入れたブランド戦略で企業の存在意義を再定義し、若年層を含む幅広い顧客との接点を強化する狙いがあったとされています。金融業界でも、自社の「らしさ」を再構築して発信していくことでブランドの若返りと信頼性向上を図った例と言えます。

③ BtoB企業の事例:競争優位性を生む企業の「らしさ」 – サイボウズ

BtoB企業でも独自のアイデンティティ発信により競争力を高めた例があります。グループウェア開発のサイボウズは、自社製品の機能面だけでなく「働き方改革」という社会課題に焦点を当てたブランド戦略を展開しています​。同社はオウンドメディア「サイボウズ式」を立ち上げ、自社の理念である“新しい働き方”に関する情報発信を継続的に行ってきました

。さらにショートアニメ「アリキリ」の制作や「がんばるな、ニッポン。」という新聞広告、テレビCMなど多様な媒体で「働き方改革の会社」という一貫したメッセージを打ち出しています​。自社の企業文化そのものを体現したこれらの発信により、「メディアでよく見かける会社」「サイボウズのように働き方改革をしたい」という共感を持つ顧客が増加しました​。

またこのようなブランド発信は顧客だけでなく求職者にも響き、自社の理念に共感する優秀な人材の応募増加にもつながっています​。サイボウズの例は、BtoB企業が自社の「らしさ」を社会的メッセージとして発信し続けることで市場での差別化とファンづくりに成功したケースと言えるます。

5. 「らしさ」を社内外に浸透させる方法

せっかく言語化した企業アイデンティティも、社内外に浸透しなければ絵に描いた餅になってしまいます。最後に、その「らしさ」を組織内部と外部双方に根付かせるための施策を紹介します。

社内への浸透(インナーブランディング)

まずは社員一人ひとりが企業アイデンティティを理解し共感している状態を作ることが重要です。社内報やイントラネットで経営メッセージを繰り返し発信したり、オフィス内にポスターを掲示して理念やバリューを視覚化するのも有効です​。

また社員参加型のブランドワークショップを開催し、策定したミッション・バリューについてディスカッションする機会を設けるのも良いでしょう。研修プログラムに組み込んだり、「クレド」(信条カード)の形で常に携帯できるようにする企業もあります​

。こうしたインナーブランディング施策を徹底することで、社員が日常業務の中で企業理念を自然と体現できるようになります​。実際、社員が心から理解・納得していれば、その言動を通じて企業のアイデンティティが社内外へと自発的に発信されていきます​。大切なのは一度伝えて終わりではなく、定期的かつ継続的に働きかけを行うことです​。

社外への浸透(コミュニケーション戦略の活用)

社内で十分に共有されたアイデンティティは、次に社外への発信によってブランドとして確立されます。具体的にはコーポレートサイトや会社案内、広告・SNSなどあらゆるタッチポイントでメッセージを一貫させます。新たに企業スローガンを策定した場合はプレスリリースで公表し、自社ウェブサイトやパンフレットの内容もそのメッセージに合わせて更新します。SNS発信やテレビCMを活用して広く認知を高める方法も有効です​。

例えば前述の事例のように、新聞広告で企業姿勢を打ち出したり、動画コンテンツで世界観を表現するのも良いでしょう。社外へのコミュニケーション展開にはそれなりの予算や人員、関係各所との調整が必要になるため、社内への浸透と並行して計画的に進めることが大切です​。

採用・人材ブランディングへの活用

企業アイデンティティの浸透施策は、採用活動にも活かせます。自社の特性や価値観、文化を明示し積極的に発信する採用ブランディングによって、自社に共感する人材を惹きつけることができます​。単に応募者数を増やすだけでなく、企業理念に共感し長期的に活躍してくれる優秀な人材を引き寄せることが目的です​

。具体的にはリクルートサイトや会社説明会でミッション・バリューをしっかり伝え、自社のカルチャーにマッチする人に響くメッセージを届けます。社員の働き方や社風を紹介するコンテンツを発信したり、インターンシップや会社訪問の場で理念体験を提供するのも有効でしょう。採用段階から企業の「らしさ」を示すことで、入社後のミスマッチを減らし、社員の定着率向上にもつながります。

まとめ

企業の「らしさ」を言語化し、社内外に浸透させることは短期的なブランド強化に留まらず、長期的な企業価値の向上につながる戦略的な取り組みです。明確な企業アイデンティティは、その企業が何者で何を大切にしているかを示す羅針盤となり、社員・顧客・取引先との間に強い信頼関係を築きます​。競争の激しい市場環境において、自社の芯がぶれないということ自体が大きな強みとなり、他社との差別化要因にもなります​。

実際、日本の伝統的企業から新興企業まで、企業アイデンティティの構築と発信によって持続的なブランド価値を築いている事例が増えています。ぜひ自社の「らしさ」を改めて見つめ直し、言葉にして伝えることにチャレンジしてみてください。それは単なる広報活動ではなく、組織を強くし市場から選ばれる存在になるための鍵と言えるでしょう。


参考文献・情報源:

  • 「CI(コーポレート・アイデンティティ)の意味や目的と開発とは」株式会社チビコ (2024年11月25日) 【URL】https://chibico.co.jp/blog/branding-design/ci-corporate-identity-018/
  • 「〖事例あり〗コーポレートアイデンティティ(CI)とは?設定する目的や会社へのメリットを解説」フリーコンサルタント.jp(mirai-works) (2024年12月5日) 【URL】https://mirai-works.co.jp/business-pro/business-column/corporate-identity
  • 「コーポレートアイデンティティ(CI)とは?成功事例から作成方法を学ぼう!」VI専門チームCHICS (公開日不明) 【URL】https://chics.top/news/1635/
  • 「コーポレートアイデンティティ戦略とは?事例も交えて解説」ProSharing Consulting (2023年10月18日) 【URL】https://circu.co.jp/pro-sharing/mag/article/2904/
  • 「ローソン銀行 - ビジュアルアイデンティティの成功事例」Move Emotions株式会社 (事例紹介) 【URL】https://move-emotions.co.jp/works/lawsonbank/
  • 「BtoB企業のブランディング事例5選を紹介&徹底分析!自社活用のポイントも解説」株式会社アイティベル (2024年10月18日) 【URL】https://it-bell.com/branding-case-study/
  • 「採用ブランディングとは? 目的、実施の方法・ポイント、事例を解説」Great Place To Work® Institute Japan (2023年5月9日) 【URL】https://hatarakigai.info/library/column/20240509_3385.html

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この記事を書いた人

ヨコタナオヤのアバター ヨコタナオヤ Creative Producer / Strategic Designer

1990年生まれ、大阪府交野市出身。東京・文京区在住。元植木屋。
「戦略 × デザイン」 の視点を活かし、多様な業界の新規事業開発・ブランディング・マーケティング・プロダクト開発に携わる。ブランドのアイデンティティ構築や戦略設計、特別化を軸にした事業成長の仕組みづくりを得意とする。
スタートアップから大手企業まで、事業戦略の策定から実装支援まで一貫して伴走し、ブランドストーリーの構築、プロダクト開発、デジタルマーケティング戦略を手掛け、持続可能な成長をサポート。
また、合同会社コラレイトデザインの代表としてビジュアルデザイン・Web制作・マーケティング支援を行うほか、一般社団法人社会構想デザイン機構では、社会課題にフォーカスしたクリエイティブアプローチにも積極的に取り組む。

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