どの企業も自社の強みを活かして競合との差別化を図ろうとします。
しかし、市場が成熟するほど差別化は難しくなり、気づけば競合との消耗戦に陥ってしまうケースも少なくありません。
私(ヨコタナオヤ)自身、ブランド戦略の支援を通じて「どうすれば価格競争に巻き込まれずに選ばれる存在になれるか?」という経営者の切実な声を何度も耳にしてきました。
ポイントは、競争そのものから抜け出し、自社を唯一無二の存在に定位づけること――すなわち「特別化」にあると考えています。
本記事では、差別化戦略の限界を検証し、競争せずに市場で勝つためのブランド戦略「特別化」について、フレームワークや国内ブランドの成功事例を交えて解説します。
目次
差別化戦略の限界:レッドオーシャンの罠
成熟市場(レッドオーシャン)では、企業間競争が激化するあまり各社の提供価値が似通ってしまう傾向があります。実際、競争の激しい市場では「商品やサービスの差別化が難しくなり、競合他社と同質化しやすい」と指摘されています。特徴を打ち出しても模倣され、価格競争に巻き込まれれば差別化の効果も薄れてしまいます。
例えばスマートフォン市場を見れば、各社がカメラ性能や画面サイズで差別化を図っても、すぐに他社も追随し、最終的にはどれも大差ないように映ってしまう状況があります。差別化だけを追求する戦略では、こうした**「差別化の収斂(しゅうれん)」**を招きかねず、競争優位は長続きしません。
私の経験上、経営資源を投入して生み出した差別化要素が、短期間でコモディティ化してしまった企業は少なくありません。これこそが差別化戦略の持つ限界と言えるでしょう。
競争を超える戦略フレームワーク:ブルーオーシャンとポジショニング
では、競争そのものを回避し**「比べられない存在」になるにはどうすればよいのでしょうか。ヒントになるのがブルー・オーシャン戦略とポジショニング理論**です。
ブルー・オーシャン戦略はその名の通り、血みどろの既存市場(レッドオーシャン)ではなく、競合のいない新たな市場空間(ブルーオーシャン)を切り開く戦略です。従来にはない価値を提供し新たな需要を創造することで、競争そのものを無意味にしてしまう発想と言えます。「競合他社がひしめく市場で戦うのではなく、競合のいない市場を創造せよ」というこの戦略では、差別化とコスト効率の両立(バリュー・イノベーション)によって圧倒的な優位性を築くことを目指します。私も新規事業のブランディングに携わる際には、このブルー・オーシャンの視点で「まだ誰も取り組んでいない市場機会はないか?」と自問するようにしています。
一方、ポジショニング戦略の観点からは、既存市場の中でも競合と真正面から争わずに済む独自の立ち位置を定めることが重要です。マーケティングにおけるポジショニング理論では、「競合他社と競争しなくても勝てる『オンリーワン』の領域」を見つけ出すことが大切だとされています。
言い換えれば、顧客の心の中で「この分野ならあの会社しかない」という認識を作り上げることです。ポジショニングが上手くいけば、顧客はもはや価格やスペックで他社と比較することなく、自社のブランドを指名買いしてくれるようになります。私もクライアント企業との議論で「ナンバーワンではなくオンリーワンを目指しましょう」と繰り返しますが、これはまさに差別化のその先の「特別化」を指しているのです。
「特別化」とは何か:差別化のその先へ
以上のフレームワークを踏まえ、「特別化」とは単に競合より優れることではなく、競合と比較されない次元で自社を特別な存在にする戦略だと言えます。
差別化が「他社との違いを強調する」行為だとすれば、特別化は「他社との違いを超越し、自社だけが提供できる価値を創造する」アプローチです。
極端に言えば、競合他社がまったく眼中にない状態で独自路線を突き進むことで、市場から見れば「自社だけがそのカテゴリーを代表している」ようなポジションを築くのが理想です。
この特別化を実現するためには、発想を大きく転換する必要があります。競合をベンチマークにして「少しでも優れた製品」を作る発想から離れ、顧客にとってまったく新しい価値提案を設計することが求められます。
具体的には、非顧客に目を向けることや既存の市場セグメントの境界を越えてみることです。ブルー・オーシャン戦略では自社の商品を買っていない層(非顧客層)に着目して需要を創り出すことが鍵だとされていますが、まさにその視点が特別化には欠かせません。
私自身、プロジェクトで市場機会を検討する際には「今まで自社が相手にしてこなかったお客様は誰か?その人たちが求める価値は何か?」という問いをクライアントと共有し、新たな着想を引き出すようにしています。
では、この「競争せずに特別化する」戦略によって成功した国内ブランドにはどのような例があるのでしょうか。ここからは、日本企業の具体的な成功事例を見てみましょう。
競争を避け独自市場を切り拓いた国内ブランド事例
ワークマン:作業服専門店から生まれた新市場開拓
全国に800店舗以上を展開する作業服・作業用品専門チェーンのワークマンは、まさに「競争せずに特別化」を体現した企業です。もともと建設現場などプロの職人向け作業服に特化し堅実に成長してきた同社ですが、やがて市場の頭打ちやEC競争の激化を背景に新たな成長戦略が必要となりました。そこで注目したのが、自社の強みである機能性と低価格を武器に、これまで縁の薄かったアウトドア・スポーツウェア市場に乗り出すことでした。
一見、アウトドアやスポーツウェアの市場はナイキやアディダス、パタゴニアなど国内外の大手ブランドがひしめき、新規参入の余地がないレッドオーシャンに思えました。しかしワークマンは市場を細かく分析し、主要ブランドの多くが**「高機能=高価格」路線であることに着目します。
そこで「高機能なのに低価格」という切り口で勝負すれば隙間があると見出したのです。実際、作業服仕込みの防寒性・耐久性といった高い機能を維持しながら価格を抑えたワークマン独自のアウトドア用品は、初心者やライトユーザーを中心に大きな支持を獲得しました。「ワークマン女子」と銘打った女性向け店舗の展開や話題性あるプロモーション(過酷ファッションショーの開催など)も奏功し、いまやワークマンはアウトドアウェア市場で異色の存在感を放っています。
この戦略により、ワークマンは競合ひしめく市場に全く新しい価格帯と顧客層を生み出しました。専門誌の分析でも、ワークマンが「機能性が高く低価格のアウトドア・スポーツ服」というブルーオーシャンを切り拓き、そこに確固たる地位を築けたのは、綿密な競合分析によって明確な差別化ポイントを打ち出せたからだと評価されています。
まさに従来の延長線上ではなく、新たな土俵を自ら用意したことで成功した好例と言えるでしょう。私が小売業界のクライアントにこの事例を紹介すると、「自社も思い切ってターゲット層や価格帯をずらしてみる発想が必要かもしれない」とハッとされる経営者の方も多いです。
相模屋食料:非顧客を振り向かせた伝統食品の変革
豆腐業界トップ企業の相模屋食料も、特別化戦略で劇的な成長を遂げた企業です。同社は創業65年を超える老舗の豆腐メーカーですが、かつて豆腐市場は「差別化が図りにくく、需要も伸びない停滞市場」と見られていました。
豆腐は家庭で料理をする人が買う定番食材であり、特に若い世代や男性など自ら豆腐を買わない層**にとっては関心が薄い商品だったのです。
この状況に風穴を開けたのが相模屋の「非顧客層を取り込む」ブランディングでした。
まず同社が目を付けたのは、それまで豆腐売り場に縁のなかった若い男性層です。人気アニメ『機動戦士ガンダム』のキャラクター「ザク」の顔を模したインパクト抜群の豆腐商品「ザクとうふ」を2012年に発売すると、スーパーの豆腐売り場に突如出現した緑色のザクのパッケージがSNSやメディアで話題沸騰。
「ザクとうふ食べてみた!」という口コミが広がり、これまで豆腐に興味のなかった層が店頭に足を運ぶようになりました。続いて若い女性層に向けては、スイーツのようにおしゃれでヘルシーな新感覚豆腐「ナチュラルとうふ」を投入し、東京ガールズコレクションなどファッションの舞台でPRする戦略に出ます。従来の「地味な伝統食品」という豆腐のイメージを覆し、ポップで洗練されたプロダクトへと昇華させたのです。
このように相模屋はターゲットにしなかった人々を次々と振り向かせる商品企画によって、新しい市場を創造しました。その結果、同社は業界の常識を破る成長を遂げています。実際に、2000年に23億円だった売上高を2024年には400億円規模まで拡大させ、豆腐業界初の年商100億円超えを達成したとも報じられています。まさに「レッドオーシャンと思われた市場をブルーオーシャンに塗り替えた」成功例と言えます。
私も食品メーカーの経営者と話す際には、この相模屋の事例を引き合いに出し、「たとえ市場が成熟しきっていても、視点を変えれば新たな需要は創出できる」ことを強調しています。伝統産業であってもマーケティング発想次第でここまで飛躍できるという点で、多くの業界に示唆を与えるケーススタディです。
経営者への提言:競争しない勇気を持つ
以上見てきたように、「競争せずに特別化する」ブランド戦略は、従来の常識を破る発想転換から生まれています。経営者にとって重要なのは、現状の延長線上で考える癖から脱却することです。自社の強みを再定義し、競合が意識していない市場ニーズや顧客層を見極める目を養いましょう。幸い、データ分析やSNSで顧客の声を拾える時代です。既存顧客だけでなく、「まだ自社の商品を使ったことのない人々」のニーズに耳を傾けることで、思わぬイノベーションのヒントが見つかるかもしれません。
また、特別化戦略を実行するには社内の勇気と合意も必要です。ときに社内では「そんなニッチな市場に行って大丈夫か」「競合がいないなんて需要がない証拠では?」と慎重論が出るでしょう。しかし、ワークマンや相模屋のような成功企業も最初は未知の市場に踏み出すリスクを負いました。経営トップ自らがビジョンを示し、「競争が激しい土俵から敢えて降り、新しい土俵を作るんだ」という方針を打ち出すことで、組織を鼓舞することができます。私自身の経験でも、トップが明確に舵を切ったプロジェクトほど社内の協力体制が整い、新規市場攻略がスムーズに進みました。
競争戦略の大家マイケル・ポーターは「戦略とは『何をしないか』を決めること」と述べていますが、まさに特別化戦略は「競合と戦わない」決断と言えるでしょう。
目指すべきは、既存市場でナンバーワンになるよりも、新たな市場でオンリーワンになることです。差別化の延長線を超えて自社らしさを極めた先に、競争のない豊かなブルーオーシャンが広がっています。経営者の皆さんには、ぜひ競争しない勇気を持って、自社ブランドの新たな可能性に挑戦していただきたいと思います。
参考文献