現代の企業ブランディングにおいて、ブランドの本質は表面的なデザインや広告手法ではなく、その企業や組織が持つ「姿勢(スタンス) 」にあります。
ブランドが社会に対してどのような態度で向き合い、何を語り、どんな行動を取るのか──その一貫した姿勢こそが、消費者やステークホルダーから評価される基準となりつつあります。インターネットやSNSで情報が透明化した今、上辺だけのメッセージはすぐに見抜かれてしまい、実態を伴わないブランドは信頼を失いかねません。
そこで本記事では、企業が自らの「姿勢」を明確に定義し、それを社内外に根付かせていくためのブランディング戦略について、概念的な解説と国内企業の具体的事例を交えながら詳しく紹介します。長期的に愛されるブランドになるために必要な考え方と手法を、実務経験に基づく視点から探っていきます。
目次
主要ポイント
ブランドの「姿勢」が未来の信頼をつくる理由 なぜ表面的な演出ではなく企業の姿勢こそが、顧客との長期的な信頼関係を築く鍵となるのかを解説します。
ブランドの姿勢を明確にするためのフレームワーク ゴールデンサークル理論(Why/How/What)にとどまらない、新たなフレームワークを活用してブランドの姿勢(スタンス)を言語化・可視化する方法を紹介します。
企業の哲学を整理し、ブランドアイデンティティへと落とし込む方法 企業が持つ理念や哲学を整理し、それをブランドアイデンティティ(視覚や言葉の表現)に統合する「インサイドアウト・ブランディング」のアプローチを説明します。
ブランドエクスペリエンスの構築と社会との接点づくり ブランドの姿勢を体現した体験をどのように設計し、顧客や社会との接点で示していくか。従業員を含むブランドコミュニティ全体で一貫した体験価値を提供するポイントを述べます。
長期的にブランドの「姿勢」を発信し続けるためのポイント 時代の変化に対応しながらもブランドの核となる姿勢をブレさせず、継続的に発信・実践していくための留意点を、具体的な事例をもとに考察します。
では順に、それぞれのトピックについて詳しく見ていきます。
ブランドの「姿勢」が未来の信頼をつくる理由
消費者は企業やブランドの一貫した姿勢に共感し、それを信頼の拠り所とします。どんなに宣伝やイメージ戦略に力を入れても、企業としてのスタンスが感じられなければ一時的な関心しか得られません。逆に、顧客に寄り添うブランドの姿勢 が伝わった瞬間に、消費者はそのブランドに信頼感と共感を抱き、リピーターやファンになりやすくなります。例えば老舗ブランドが長きにわたり愛され続ける背景には、品質だけでなく消費者との強い絆 や揺るぎない信念があるからです。
さらに現代では、企業がどのような社会的価値観や使命感を持っているかも信頼に直結します。単に商品やサービスを提供するだけでなく、社会課題への取り組みや顧客本位の方針など、「この会社は何を大事にしているのか 」が問われるのです。例えば、バッグブランドのマザーハウス はファッション業界の慣習に反して「クリアランスセール(在庫一掃の値下げ販売)をしない」というポリシーを掲げています。その理由は、商品が単なるモノではなく職人の技術や想いといった価値を宿しているため、安易な値引きでその価値を損ないたくないからです。適正価格を守ることこそが顧客との信頼構築と持続可能なビジネスの鍵になるという信念を貫いており、実際この姿勢に共感するファン層を獲得しています。企業の明確なスタンスがあることで、顧客は将来にわたって「このブランドなら信頼できる」と感じ、長期的なロイヤルティ(忠誠心)につながるのです。
ブランドの姿勢を明確にするためのフレームワーク
自社のスタンスを明確化するには、体系立ったフレームワークを用いると効果的です。著名なゴールデンサークル理論 (「Why(なぜ)→How(どうやって)→What(何を)」で物事の核心に迫る手法)は有名ですが、ここではそれに留まらない新たな視点として**「5つのS」フレームワーク**を紹介します。このフレームワークでは、ブランドのコア(核)を構成する要素を5つの観点から捉えます。
Stance(スタンス) : ミッション、ビジョン、バリュー、パーパス、フィロソフィーといった企業の理念そのものです。ブランドの軸となる信念や社会における存在意義を指し、5つのSの中核に位置付けられますnote.com 。
Style(スタイル) : ブランドの様式美や表現スタイルを指します。例えばロゴやカラー、フォント、トーン・オブ・ボイス(口調)など、視覚・言語面での一貫性あるデザイン要素ですnote.com 。
Status(ステイタス) : 歴史や文化的背景、ターゲット層や社会的なイメージなど、ブランドの社会的属性を表しますnote.com 。ブランドが置かれた文脈やコミュニティ内でどのように認知されているかといった側面です。
Spec(スペック) : 商品やサービスの品質・性能、価格帯など、ブランドが提供する機能的価値に関する要素ですnote.com 。顧客にとっての実利的なメリットや満足度に影響します。
Story(ストーリー) : 上記の要素を一貫した物語としてまとめあげたものですnote.com 。創業の背景や理念誕生のエピソード、ブランドが歩んできた道のりなど、ブランド固有の物語がStance を補強し生活者と共有できる形にします。
この「5つのS」を総合的に整理することで、自社ブランドのあるべき人格や世界観 が見えてきます。特に中心に据えるスタンスを定める際には、「自社は何者で、社会とどう関わりたいのか」という根本問いに向き合う必要があります。ポイントは単に現状分析をするのではなく、未来においてどうありたいか まで踏み込んで要素を絞り込むことです。社内外のワークショップやインタビューを通じて経営陣・従業員の想いを引き出し、社会環境の調査も交えて検討することで、ブランドの核となるスタンスを言語化していきます。
例えば「ブランド・アーキタイプ」と呼ばれる手法を使って、ブランドに擬人化した人格(アーキタイプ)を与えることも有効でしょう。自社ブランドをヒーローや探求者、あるいは改革者など12種の archetype(元型)のどれに当てはめるかを検討すると、ブランドの語り口や行動指針が明確になります。大切なのは、どのフレームワークを使うにせよ核心となるスタンスをぶらさずに定義することです。一度定まったスタンスは、以降のすべてのブランド戦略の判断軸となります。その軸が明確であればあるほど、「自分たちらしさ」が際立ち、他社との差別化や社内の意思統一もしやすくなるはずです。
企業の哲学を整理し、ブランドアイデンティティへ落とし込む方法
定義したスタンス(理念)をブランドアイデンティティ として内外に表現していくには、企業哲学を起点としたインサイドアウト・ブランディング が重要です。従来はブランドの見た目や物語(スタイルやストーリー)に注力しがちでしたが、現代は透明性と真正性が重んじられる時代です。フィクションめいた美談を飾り立てるのではなく、まず企業内に実態となる文化や体験を創り出し、それを外側に発信していくアプローチが信頼を得ます。
具体的には、まず企業の理念・哲学を社内に深く浸透させる ことから始まります。経営陣だけでなく社員一人ひとりが自社のミッションやバリューを腹落ちして理解し、日々の意思決定や行動の拠り所にできている状態が理想です。ブランドの核を従業員が共有しているからこそ、ビジュアルデザインやメッセージにそれが滲み出て説得力を持ちますし、何よりブランド体験そのものに一貫性が生まれます。企業ブランディングにおいて内側(インナー)の共感と熱量なくして、外側(アウター)への発信だけで本物のブランドらしさを構築することはできません。
この点、福祉×アートのスタートアップであるヘラルボニー は好例です。同社では社員が自社の理念に強い想いと熱量を持っており、それを基盤に据えているからこそ、広告やコンテンツなど対外的な発信のみならず、提供するプロダクトやサービス、ビジネスモデルの在り方に至るまで「自分たちはどんな理念を持ち、どんなスタンスで社会と向き合っているか」を体現しています。その結果、見る人に企業フィロソフィーが自然と伝わるブランドアイデンティティが確立されています。
また、アパレルブランドミナ ペルホネン も、企業哲学をブランド体験に落とし込んでいる企業です。同ブランドは「長く使えるものづくり」を信条に掲げ、「せめて100年続くブランド」を目指すと公言しています。
この哲学はデザインや製品コンセプトに表現されているだけでなく、東京・青山の店舗「Call(コール)」での接客体験にも表れています。コールの販売スタッフ募集では「あえて人生経験豊かな60代以上の方を歓迎する」と明記し、実際に80歳を超えるスタッフも採用しました。若年層主体が当たり前だった業界慣行に一石を投じ、多様な世代が共に働く新しい在り方 を示したこの試みは、ミナ ペルホネンが大切にする「時代に流されない普遍的な価値観」を体現しています。
創業者の皆川氏も自著で「既成概念とは違う方法でアパレルを営んできた姿勢の表れ」だと述べており、まさに企業哲学から生まれたブランドアイデンティティであると言えます。
このように、自社の理念に基づいたユニークな施策や文化づくりを行うことで、ブランドの姿勢が社内文化と視覚・言語表現の両面に一貫して息づくようになります。ただスローガンを掲げるのではなく、事業や組織そのものを哲学に沿ってデザインする ことが重要です。それにより社員の誇りと主体性が醸成され、対外的にも「ブレない軸を持ったブランドだ」という評価につながっていきます。
ブランドエクスペリエンスの構築と社会との接点づくり
ブランドの姿勢を社内外に浸透させるには、ブランドエクスペリエンス(体験) の設計が欠かせません。製品を使う、サービスを受ける、お店やウェブサイトを訪れる、SNSで発信を見る――あらゆる接点で顧客が感じ取る体験を通じて、ブランドのスタンスを伝えていく必要があります。
ここでポイントとなるのが、顧客だけでなく従業員やパートナーも含めた体験設計 をすることです。企業内部の人間と外部の顧客を分断して考えるのではなく、一つの生態系として「ブランドコミュニティ 」と捉える方が本質を捉えやすくなります。ブランドに対する熱狂や共感は内側(社員)から外側(顧客)へ伝播していくものですから、社員も「従業員」ではなくコミュニティのアンバサダー として位置付け、それぞれがブランド体験の担い手になるように意識づけます。
次に、実際のブランド体験を設計する際には目的の異なる3つの視点 で施策を考えてみると良いでしょう。具体的には以下の三つです。
アクティベーション(Activation) ブランドの姿勢を起点に世の中へ働きかけ、ブランドを活性化する体験づくり。例えば前述のヘラルボニーが2020年に展開した意見広告は、自社のスタンスを社会に問いかけブランドの存在感を高める「アクティベーション」の好例でした。
カルティベーション(Cultivation) スタンスを共有するファンやコミュニティを育成・醸成する体験づくり。ミナ ペルホネンのショップ「Call」で多世代のスタッフと顧客が交流する場は、ブランドコミュニティに対するカルティベーションの一例と言えます。共感の輪を内側から育てることで、ブランドはより強固な支持基盤を築きます。
セレブレーション(Celebration) ブランドのスタンスを体現した人や成果を称え、共有する体験づくり。これはコミュニティ内に誇りと一体感をもたらします。例えばNIKE はキャンペーン「WINNING ISN’T FOR EVERYONE」において、勝利にこだわるアスリートの姿勢を称賛しつつ自社のスタンスを明確に示しました。こうしたセレブレーション施策はブランドの価値観を祝福することでさらに多くの共感を呼び込みます。
以上のような体験設計を通して、ブランドの姿勢を生活者との接点で具体化していくことができます。重要なのは、一度きりのキャンペーンに留めず継続的にこれらの体験を提供し続けること です。
ブランド体験は商品開発、顧客対応、空間演出、イベント、デジタルコンテンツ発信など様々な形で創出できますが、その全てにブランドの「らしさ」が通底していればいるほど、受け手の心に残る強いブランド印象を築くことができるもの。企業活動のあらゆる面がブランディングの舞台になり得ると捉えて、統合的な視点でブランドエクスペリエンスを設計することが肝心です。
長期的にブランドの「姿勢」を発信し続けるためのポイント
ブランドの姿勢を確立し体験を提供し始めた後も、長期的なブランドマネジメント が欠かせません。一貫したスタンスを維持しながら、時代の変化や環境の変動に柔軟に対応していくことが求められます。そのためのポイントをいくつか押さえておきましょう。
まず、定期的な振り返りと見直し です。ブランドを取り巻く社会や顧客の価値観は刻々と変化します。そこで自社のブランドが当初掲げたスタンスやアイデンティティにズレが生じていないか、継続的にチェックする習慣を持ちましょう。例えば、「当社らしさ」は何か、「ブランド人格」にブレはないか、といった問いを定期的に投げかけます。これにより、万が一ブランドにとって予期せぬ事態が起きても、軸がぶれていなければ適切な対応策をとる指針が得られます。
実際、前述のSoup Stock Tokyo の事例は継続的な姿勢発信の重要性を示しています。同社は2023年、全店での離乳食無料提供という新施策を発表した際、一部SNS上で「店の雰囲気が変わるのでは」といった否定的な声が上がりプチ炎上しました。しかし約1週間後、同社は焦って謝罪することなく自社の理念と考え方を丁寧に綴った声明文 を公式サイトに掲載します。そこでは「私たちは世の中の体温をあげるという理念のもと、あらゆる人を包摂するブランドを目指してきた。今回の声明文はその姿勢を示すものです」と毅然とスタンスを貫き、結果として「安易に迎合しない素晴らしい対応だ」と多くの賛同を得ました。
企業として一貫した姿勢を持っていれば、批判に直面したときもそれをスタンスを再確認し発信する機会 に変えることができ、むしろブランドへの信頼を高めることができる好例と言えるでしょう。
次に、社内への共有と人材育成 です。ブランドの姿勢を長く保つには、世代を超えて社員に受け継がれていく必要があります。新入社員のオンボーディングや日々の業務の中で、ブランド哲学や過去の歩みを学ぶ機会を設けましょう。社内報や朝会でミッションやバリューを再確認したり、ブランドにまつわるエピソードを語り継ぐことも有効です。
インナーブランディング (内部ブランディング)に継続的に取り組み、社員が自社のブランドを自分事として捉えられる環境を整備します。社員一人ひとりがブランドの担い手であるという意識が醸成されれば、自ずと日常のあらゆる場面でスタンスが体現されるようになります。それが積み重なって外部にも伝播し、企業ブランディングの強固な土台となるのです。
最後に、時代に応じた進化を恐れないこと も挙げておきます。スタンスは不変の信念ですが、その伝え方や具体的な取り組みはアップデートが必要です。長寿ブランドほど、核となる価値観は守り続けながらも新しい技術や手法を積極的に取り入れています。たとえば環境問題に向き合う姿勢を打ち出したブランドが、新たなサステナブル素材の採用やカーボンニュートラル施策を導入することは、スタンスを行動で示す進化と言えます。
「変わらない信念」と「変わり続ける工夫」を両立させることで、ブランドは常に現代性を保ちつつ信頼を積み重ねていけるでしょう。
おわりに
企業やブランドが長期的に支持されるためには、見せかけではない本質的な価値を提供し続けることが求められます。その核となるのがここで述べてきた「姿勢(スタンス) 」です。スタイル(表現)も大切ですが、それを支えるスタンスがしっかり定まっていれば、どんなデザインやキャンペーンにも魂が宿ります。逆にスタンスなきブランドは、時代の波に流され消費者の記憶から消えてしまうかもしれません。
幸いなことに、姿勢を打ち出し共感を得たブランドは未来の信頼という大きな財産を手にします。強いスタンスは顧客との絆を生み、新たなファンを呼び込み、社内には誇りと団結をもたらします。そしてその好循環がさらにブランド価値を高めていくのです。
ぜひ自社のブランドアイデンティティ を今一度見つめ直し、企業哲学に根差したブランディング戦略を構築してみてください。ブランディングの本質である「姿勢」を貫くことが、信頼という何にも代えがたい資産を未来へと築く道になるでしょう。
参考リンク:
社会に対するブランドの姿勢づくりに関する詳しい解説は、BIOTOPE松隈氏の「ブランドは『スタイル』から『スタンス』の時代へ」にて紹介されています。また、パーパス経営に関するフレームワーク「IPCSEモデル」についてはマーケジンの記事「一貫したパーパス・ブランディング実行のフレームワーク」が参考になります。さらに、100年ブランドの研究についてはCHIBICO社の「100年続くブランドが愛される理由と成功事例」に具体的な考察があります。ぜひ参照してみてください。
ブランディング会社|株式会社チビ...
100年続くブランドが愛される理由と成功事例 - ブランディング会社|株式会社チビコ | CHIBICO
100年以上にわたり愛され続けるブランドには、時代を超えて支持される理由があります。それは単に高品質な製品やサ プライベートブランドとは、小売業者が自社ブランドとし...
FASHIONSNAP [ファッションスナッ...
販売を超えた顧客との信頼の構築、「クリアランスをしない」マザーハウスのヴィジョン
先日、マザーハウスの山﨑大祐副社長に直接お話を伺う貴重な機会がありました。経営の哲学やブランド戦略について語るその姿勢は、顧客との関係性を大切にする同社の価値観...
SEVEN DEX POST
本質に辿り着く、基本のフレームワーク|セブンデックス
デザイナーは視覚化プロフェッショナルでもありますが、言語化のプロでもあります。 視覚表現で何かを伝えるためには
note(ノート)
ブランドは「スタイル」から「スタンス」の時代へ ──理念から始める、インサイドアウト・ブランディング|B...
『この意見広告を経て、ヘラルボニーのスタンスは明確になりました』 世界各国の革新的なスタートアップを評価する「LVMH Innovation Award 2024」にて、日本企業として初...
YOSORO | YOSORO(ヨーソロー)は...
「私たちはすべてを解決できると思っていない」Soup Stock Tokyoの声明文から見えてきた、社会を良くするブ...
変化のスピードが速い時代において、企業ブランドを貫き続けることは容易くない。それが社会に対したものならば、尚更にさまざまな意見をぶつけられることもある。では、ブ...