戦略とクリエイティブが融合するブランド設計

クリエイティブプロデュースや戦略デザインを専門として活動している、ヨコタナオヤと申します。

「コンセプト × 戦略 × デザイン」の視点から、スタートアップや成長企業の皆様の「新規事業開発」「ブランディング」「戦略設計」などをお手伝いする中で、お客様からいただく質問や気づいたことをまとめて、新規事業開発担当の方や経営者の皆様に役立ちそうな情報としてお届けしています。

※本記事 【戦略とクリエイティブが融合するブランド設計】は「クリエイティブディレクション, ビジネスデザイン, ビジネスフレームワーク, ブランドアイデンティティ, ブランド戦略, マーケティング戦略, ユーザーエクスペリエンス, 事業戦略, 企業ブランディング, 競争戦略」に関する記事となっております。(記事カテゴリ: ブランディング・戦略
目次

ブランドの本質は、戦略とクリエイティブの融合にある

ブランド作りにおいて、戦略(ストラテジー)とクリエイティブ(表現)はしばしば別々に扱われがちです。しかし、効果的なブランディングは戦略的思考とクリエイティブを融合させることで生まれます​。

優れたブランドの本質は、戦略で定めた「なぜ(Why)?」にクリエイティブの力で魂を吹き込み、消費者の心に響く体験へと昇華することにあります。戦略だけでもデザインだけでも不十分であり、両者をいかに結びつけるかが真に価値あるブランドを生み出す鍵となります。

戦略とクリエイティブは「対立」ではなく「補完」関係

戦略とクリエイティブは対極にあるように見えて、実際には相互に補完し合う関係です。戦略が土台と方向性を示し、クリエイティブがその上に具体的な表現を築くことで、一貫したブランド体験が生まれます。

戦略がクリエイティブを支える

戦略の役割は、ブランドの「なぜ?」(目的や存在意義)を明確にし、進むべき方向を定めることです。例えば、市場を細分化して狙うべきターゲットを定め、提供する価値(バリュー)を言語化し、どんなメッセージで伝えるかといったコミュニケーション計画を策定します。

STP分析(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)などのフレームワークを用いて市場での立ち位置を設計することは、ブランディングにおいても欠かせない基本プロセスです​。

戦略がしっかりしていればこそ、クリエイティブは迷いなく表現の方向性を定めることができます。逆に言えば、十分な戦略なしにネーミングやロゴデザインなどのクリエイティブを進めるのは危険であり、後から大きな修正が発生しかねません​。まず戦略で土台を固めることで、クリエイティブはその上で効果を最大化できるのです。

クリエイティブが戦略を具現化する

一方でクリエイティブは戦略を具現化する手段です。言葉や数値の戦略だけでは伝わらないブランドの価値・世界観を、視覚デザインや映像、体験を通じて直感的に伝えます。戦略で定義した「ブランドらしさ」やトーン&マナーを、ロゴやカラー、UI/UXなどあらゆる接点に落とし込み、一貫性のあるメッセージとして顧客に届けます​。

例えば高級感を戦略上の差別化ポイントとするブランドなら、その戦略に沿って洗練されたビジュアルや上質な質感のプロダクトデザインを採用するでしょう。クリエイティブによって戦略が初めて顧客の五感に訴える形となり、ユーザーの記憶に残る体験が生まれます。優れたクリエイティブはブランドとの接触体験を特別なものにし、戦略で描いた顧客との関係性を現実のものとするのです。

戦略とクリエイティブをつなぐ3つのポイント

戦略とクリエイティブを真に融合させるために、以下の3つのポイントを意識すると効果的です。

「戦略の可視化」を意識する

まず、策定した戦略を可視化することを心がけましょう。文字だけの戦略書ではなく、図やマップ、キーワードをビジュアルにまとめたブランドボードや簡易なコンセプト動画など、視覚に訴える形で戦略の方向性を表現します。例えばブランドの使命や価値観を象徴する画像をコラージュしたり、ペルソナの生活シーンをイラスト化するといった方法です。戦略をこのように視覚的に整理して社内外で共有することで、関係者全員が共通のイメージを持ちやすくなります。抽象的な戦略の意図が具体的なイメージとして伝われば、その後のクリエイティブ制作で「思っていたものと違う」という認識ズレが起きにくくなり、戦略と表現の乖離を防げます。

戦略とクリエイティブを分業せず、一体化させる

戦略立案とクリエイティブ制作を別部門や別フェーズで完全に分業せず、一体となったプロセスにすることも重要です。戦略策定の段階からクリエイティブ担当者が関わり、戦略コンセプトとビジュアルコンセプトを並行して練り上げていきます。例えばブランディングの専門チームでは、ワークショップ形式で経営陣・マーケター・デザイナーが一堂に会し、ブランド戦略とそれに沿ったデザイン案を協議しながら合意形成を図るケースもあります。

そのように初期から戦略とクリエイティブを協働させることで、後になって「デザインを一から作り直す」といった無駄を減らすことができます​。戦略の方向性に対する共通認識が早期に醸成されるため、クリエイティブも軸のブレないアウトプットを効率よく生み出せます。一体化したプロセスはチーム間の対立を減らし、ブランドづくり全体のスピードと完成度を高めるのです。

戦略に「余白」を残し、クリエイティブの可能性を広げる

細部まで練り上げた戦略は大切ですが、戦略に余白を残すことも創造性を活かすポイントです。戦略があまりに厳密すぎるとクリエイティブの自由度が奪われ、表現の幅が狭まってしまいます。そこで、基本となる方向性や原則は示しつつも、具体的な表現手法やタッチポイントの選択にはある程度の柔軟性を持たせます。

例えばブランドメッセージのトーンは定めても、その伝え方(映像にするかイベントにするか等)はクリエイターの発想に委ねるなどです。戦略に遊びの余地があることで、デザイナーやコピーライターは戦略の意図を汲みながらも多様なアプローチで提案ができます。

これはブランドにとって思いもよらない革新的な表現を生む土壌となり得ます。方向性を示しつつ柔軟性も確保するバランスが、戦略とクリエイティブの良い関係を保つポイントです。

戦略とクリエイティブが一体化したとき、ブランドは強くなる

戦略とクリエイティブの融合が実現したブランドは、他社には真似できない強さと魅力を持ちます。実際、戦略と表現を一体化させることでブランドを特別な存在へと高めた国内企業の事例も数多く存在します。

例えば、京都の老舗茶筒メーカー「開化堂(Kaikado)」は140年以上続く伝統工芸ブランドですが、近年その戦略として「ブランド体験の場」を創出しました。同社は自社の茶筒の魅力を単に商品説明するのではなく、五感で体験してもらう場として「Kaikado Café」をオープンしています。レトロモダンな雰囲気のカフェ空間で、実際に開化堂の茶筒やティーウェアを使ったお茶時間を提供することで、ブランドの世界観を来訪者に体感させています。これは「言葉でなく、体験してもらうことで、ブランドを理解してもらう」という戦略意図によるもので、職人技の繊細さや伝統の価値を暗黙知のまま伝える取り組みです​。

その結果、開化堂は地元の常連客だけでなく国内外の若い世代にもブランドのファンを広げ、伝統工芸のブランドに現代的な輝きを与えることに成功しました。

また、新潟発のアウトドアメーカー「スノーピーク(Snow Peak)」は、自社を単なるキャンプ用品メーカーに留めず**「自然志向のライフスタイル」を提案するブランドへと発展させた事例です。同社はブランドミッションに「人と自然をつなぐ豊かなライフスタイルの実現」を掲げ​、この理念に基づいた戦略とクリエイティブ展開を一貫して行っています。

具体的には、高品質でデザイン性の高い製品を作り続けるだけでなく、ユーザーコミュニティを育む創造的な施策にも注力しています。社員と顧客が一緒にキャンプを楽しむイベント「スノーピークウェイ」を定期開催し、製品を実際の体験の中で共有することでブランドと顧客の関係性を深めています​。

こうした戦略(ユーザー視点の徹底)とクリエイティブ施策(共創イベントや世界観のある直営店展開など)が相まって、スノーピークは熱狂的なファン(スノーピーカー)を獲得し、高価格帯でありながら支持される強いブランドへと成長しました。事業領域もキャンプ用品の販売から、キャンプ場運営やアパレルライン展開などライフスタイル全般へ広がりを見せ、ブランドの特別なポジションを築いています。

このように戦略とクリエイティブが一体化した企業は、単なる商品・サービス提供を超えた体験価値を生み出し、ブランドに競合他社とは一線を画す魅力と持続力を与えています。

ブランド戦略のフレームワークを適度に活用する

戦略とクリエイティブの融合を語る上で、ブランド戦略のフレームワークも触れておきましょう。フレームワークは戦略立案を助け、戦略と表現の一貫性を保つのに有用なツールです。前述のSTP分析は、自社ブランドの狙う市場とポジションを定める基本ステップであり、限られた経営資源を効果的に投下する指針となります​。適切なセグメント設定とターゲティングによって「誰に何を提供するブランドか」が明確になれば、クリエイティブも狙いを定めやすくなります。

さらに、ブランド・アーキタイプのフレームワークを取り入れるのも一案です。ブランド・アーキタイプとは、ユング心理学の元型理論に基づきブランドに人格(キャラクター)を見立てる手法で、企業や商品ブランドを12種類の典型的な人格に当てはめる考え方です​。

例えば自社ブランドを「英雄」「アウトロー」「探求者」などの Archetype に当てはめて定義することで、そのブランドらしいトーンやビジュアルスタイルを一貫して設計しやすくなります。抽象的なブランドの理念や個性を社内外で共有する助けにもなり、クリエイティブ面でブレない指針となります。

ただし、フレームワークはあくまで手段であり、使うこと自体が目的になってはいけません。大切なのは、自社ブランドの文脈に合わせて必要な部分だけを柔軟に活用することです。STP分析で得られた洞察や、アーキタイプで定めたブランド人格は、クリエイティブへのインスピレーションにもなります。戦略の骨格作りにフレームワークを役立てつつ、それらが示す方向性をクリエイティブチームと共有し、一貫したブランド構築に活かしましょう。

「思想 × 戦略 × 表現」の一貫性をチェックする

ブランド設計では、ブランドの思想(理念)・戦略・表現がしっかりと繋がっているか常にチェックする姿勢が欠かせません。いくら部分的に優れた戦略やデザインがあっても、根底の思想とかけ離れていては顧客の心に響くブランドにはなり得ません。ブランドの核となる思想(パーパスやフィロソフィー)が戦略の意思決定に反映されているか、そしてその戦略が実際のクリエイティブ表現に矛盾なく落とし込まれているかを点検しましょう。

例えば、「環境に優しいライフスタイル提案」という思想を掲げるブランドが、戦略ではエコ志向のターゲットを設定しているのに、表現される広告クリエイティブが使い捨て消費を煽るような内容ではミスマッチです。こうしたズレを防ぐために、企画段階から最終アウトプットに至るまで一貫性を意識することが大切です。伝わるだけでなく、「心を動かす」ブランド設計を目指すなら、理念・戦略・表現の統合を追求しましょう。三位一体となったブランドメッセージは説得力を増し、顧客に安心と共感を与えます​。

最後に、ブランド構築は一度戦略とデザインを作って終わりではなく、環境変化や顧客の声に応じて磨き続けるプロセスです。その中で常に核となる思想と軸を守りつつ、新しいクリエイティブな手法を取り入れていくことで、ブランドは進化しながらもブレない強さを保てます。

綿密な分析に裏打ちされた一貫した戦略と、それを退屈に感じさせないクリエイティブの融合によって、ブランドはより魅力的で記憶に残る存在となるはずです。

参考文献

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この記事を書いた人

ヨコタナオヤのアバター ヨコタナオヤ Creative Producer / Strategic Designer

1990年生まれ、大阪府交野市出身。東京・文京区在住。元植木屋。
「戦略 × デザイン」 の視点を活かし、多様な業界の新規事業開発・ブランディング・マーケティング・プロダクト開発に携わる。ブランドのアイデンティティ構築や戦略設計、特別化を軸にした事業成長の仕組みづくりを得意とする。
スタートアップから大手企業まで、事業戦略の策定から実装支援まで一貫して伴走し、ブランドストーリーの構築、プロダクト開発、デジタルマーケティング戦略を手掛け、持続可能な成長をサポート。
また、合同会社コラレイトデザインの代表としてビジュアルデザイン・Web制作・マーケティング支援を行うほか、一般社団法人社会構想デザイン機構では、社会課題にフォーカスしたクリエイティブアプローチにも積極的に取り組む。

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